親指を、立てる。
2018/01/14
Category: Diary
ヒッチハイク。
「止まって。」
「僕を乗せて。」
「ありがとう。」
「さようなら。」
なんとも強引な方法です。
見ず知らずの、薄汚れた旅行者を拾い、見返りもないもにもかかわらず目的地、あるいはその方向へと運んでくれるのですから、止まってくれるドライバーは、それはそれは親切心の塊を宿しています。
今回のトリップでは、およそ500kmもの道のりを乗せてもらいました。
総勢11台。
Kiwiはもちろん、
Germany、
India、
Malaysia、
Spain。
いろんな国籍のドライバーです。
親切心は国や地域によるものではありません。
世界中にあふれています。
簡単に拾ってもらえることもありました。
トボトボ歩きながら、
車の音が聞こえたら、
力なく『一応』親指を立てる。
そんな投げやりなヒッチハイクでも、
成功するときはあっさり成功するものです。
(書いていて申し訳なさがこみ上げてきます)
上の写真の彼は、まさにそんな風に止まってくれました。
しかし、上手くいかないことだってもちろんあります。
立ち止まり、
車が来る方向を向き、
「僕はバックパッカーだ。」と言わんばかりに、
ザックを降ろし目の前に置く。
左腕の肘を伸ばし、
肩よりも高く親指を立てる。
そして、お留守になった右手を
力一杯振る。笑顔で。
これが僕の考えるヒッチハイクの流儀に則った正統な方法です。
やっぱり成功率は高いですが、
1時間経ってもからっきしダメなときはダメ。
(いかにも歩く気がないのがダメなのかも。)
運任せ、ですから仕方がありません。
決まった時刻に目的地に行きたければ交通機関を使うべきです。
しかし、そうはいかない事情がNZにはあります。
まず、公共交通機関自体が少ないのです。
日本は凄まじい国です。
いたるところに鉄道が張り巡らされています。
新幹線だってあるし、
路線バスだってある。
比較的小さな街だって、
駅前に行けばタクシーを拾うことができる。
それに比べNZには鉄道は殆ど通っていません。
少なくともバックパッカーの移動手段にはなり得ません。
タクシーも、空港から街まで運んでもらうのに用いられる程度。僕は利用したことがない。
この国の公共の移動手段はバス。
主な街の間をいくつかの会社が運行しています。
また、メジャーなトレイルヘッドにはシャトルバスも通っています。
しかし本数は少なく、1日1本程度しかありません。
これでは、移動するのに1日時間を取らされる、ということも多々あります。
そこでヒッチハイクが有効なのです。
そんな事情もあってか、ヒッチハイカーはたくさん見かけるし、
ドライバーも寛容です。
僕が待った時間は平均15分ほどでしょうか。
日本じゃあこうはいかないはずです。
前述した通り、運任せなのですが、
やはり大きな街中では成功しにくい。
街の外れの主要道路沿いが理想です。
外れすぎると、今度は交通量が少なくなってしまう。
誰も通らないんじゃないか…と不安になったこともあります。
それでも、なんとかなるのが『Backpacking』というもの。
世の中、
思い通りにならないこともたくさんあるのだけれど、
大抵のことはなんとかなる。
そんなことをBackpackingは教えてくれます。
これはいろんな国に当てはまることかもしれないけれど、
NZには日本車がたくさん走っています。
しかも結構旧い。
日本じゃエコカーと称して、
どんどん車を買い替え、
ピカピカで、
誰もがおんなじような車に乗っていますが、
NZには車を大事にする気風があります。
「Japanの車は安くてタフだ。」
みんな口を揃えてそう言います。
ドイツ人たちでさえ、自国製の車を所有したことがない。と言っていました。理由は高いから。
(僕が出会うのはヒッチハイカーを拾う人たちですから、そもそも高級車を好む層の人々には出会わないんですが。)
日本の車社会。
これには個人の趣向だけでなく、様々な事情が絡んでいるでしょう。
旧い車に乗るほどお金がかかる仕組み。
まだまだ乗れる、タフな車なのに。
自動車は日本の主要産業ですから。
買い換えのサイクルは早い方が都合がいい。
ものづくりの国、日本。
「大切なクルマを永く使う。」
発展のために、そんな信念は二の次にされてきてしまったのでしょう。
それから、Kiwiたちはとにかくホリデーを満喫します。
大きな車にカヤック・サーフボード・MTB・ボートと、とにかく詰めるだけ積み込んでファミリーでフィールドに向かいます。
中にはソファやベットまで積んでいる車も。
親指を立てる僕に、微笑みながら「ごめんよ」という仕草をして去っていく車の多いこと。
遊び道具が山積みで、人を乗せる余裕などないんです。
でも反応を返してくれるだけでも優しい人たちです。
こんなこともありました。
2年前、アーサーズパスという村でヒッチハイクをしていた時、1台の車が止まりました。
中には60代ほどのKiwiドライバー。
助手席にはアジア人が座っています。
聞くと、彼も台湾から来たヒッチハイカーだといいます。
ヒッチハイカーを乗せているのにもかかわらず、
さらにヒッチハイカーを拾ってくれたというのです。
それにしても、彼らは妙に仲がいい。
つい先ほど会ったとは思えません。
訝しいんで(大げさですね)聞いてみると、
なんと3日前、遠く離れた街でも彼を拾ったのだと言います。
距離にして700kmほどですから、再び出会うのは容易ではありません。
「Good luckと言い、お互いに別れたんだ。
そして今日、道路端に立つ彼を拾った。信じられないね!」
全てはこの老人の優しい心が引き起こした奇跡でしょう。
これだから旅は素敵です。
(この後僕と台湾人の彼をカフェに連れて行ってくれてコーヒーまでご馳走してくれました。)
今年も実にいろんなドライバーに出会いました。
彼女に会いにいくんだ、という青年や。
マヌカハニーを栽培している夫人。
ワイン醸造家を目指しNZで修行中のカップル。
日本ではまずありえない大きさのトレイラーにも乗せてもらいました。
総じて言えるのは、みんな日本を愛してくれています。
「日本人はみんな、親切で礼儀正しいのよ。」
そう言われるたびに、嬉しくなり、そして自分はどうなんだと、身が引き締まる思いもします。
僕の振る舞い一つで、出会う人たちが抱く日本の印象が変わってしまうかもしれません。
またまた大げさですが。
しかし今まで善き日本人がいたから、彼らがそう言ってくれているんだと思います。
Backpackingは、綿々とつながっていく文化なのです。