User's Story

Tetsuya Fukui

福井 哲也
トレイルランナー
1978年4月12日
岐阜県出身


僕が福井さんに初めて出会ったのは、南アルプスの雄峰、赤石岳と聖岳の間に位置する百間洞だった。
ただでさえ山深い南アルプス南部でも、さらに深く、独特な雰囲気があって、僕はこの場所が大好きだ。

夏山と呼ぶにはもう遅いだろうか、日の入りは随分と早くなった。
9月末の夕暮れ時のこと。
福井さんは颯爽と現れた。
ノースリーブシャツにランニングパンツ、15Lほどのバックパック。
その軽装な姿は、ここではあまり見かけない。

その行程を聞いて驚いた。
沼平のゲートを早朝出発し、椹島まで林道を走り、千枚岳、荒川岳、赤石岳を越えてやってきたという。
通常のコースタイムで言えば22時間。凄まじい行程なのに、涼しい顔。
自分に対する厳しさを持っている人の多くがそうであるように、
一見話しかけづらい雰囲気があるのだけれど、言葉を交わしてみるととても物腰の柔らかい紳士だった。

予想にたがわず、実力のあるランナーだった。
国内の大きな大会で数多くの入賞経験がある。
でも、そんなことは全く鼻にかける様子はなく、純粋にトレイルランニングを楽しみたい、そんな気持ちが伝わってくる。
小屋前のベンチで軽い夕食を共にしながら、僕は一瞬で彼のファンになった。

初めからその実力を発揮していたわけではないようだ。
「運動不足解消に30歳を過ぎてからジョギングを始めて、何かジョギング大会に出ようとネットで検索していたんだ。
 そうしたら、おんたけ100キロというレースが見つかった。
 制限時間を計算したらキロ12分で進めば完走できるみたいだし、なんとかなるだろうとエントリーしたのがきっかけだよ。
 よくよく調べたら、ロードの100㎞ではなく、トレイルランニングの大会だったんだ。そこからトレイルランニングシューズやザックなど揃えたかな。
 勿論山なんて走った事もなく、ロードをやっと20キロぐらい走れるようになったぐらいで参加したから、もうボロボロになって16時間ぐらいかかって何とか完走した!  
そこからだね。トレイルランニングって面白いと思ったのは。」

縁あって交流は続き、僕は福井さんのバックパックを作ることになった。
25L程の容量のある、走れるバックパック。
荷物に簡単にアクセスできて、下ろすことなくボトルが取れる。
難しいオーダーではあったものの、僕は福井さんのアクティビティを支えられるなら、と懸命に作った。
この時作ったバックパックは、今でも僕の原点だ。
僕の作ったバックパックを背負って、アルプスを駆け回る福井さんの知らせを聞くたびに、僕は嬉しくなった。

福井さんに目標を聞いてみた。
「目標? 特に決めていないよ。
 あまり難しく決め事作っちゃうと、山を楽しむ事を忘れて、辛くなるだけだから。
 決め事を作らず楽しむことが目標だよ。」
福井さんは、そう、さらりと答える。
でも、僕にはわかる。福井さんは言葉には出さずとも、もっともっと上を見据えている。

そんな福井さんを、僕は心から応援している。

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