User's Story

サンコンズ

Hideaki Yoneda 
Naoya Sakoh 
Katsuyoshi Kadan 
Natsumi Iwatsuki 

百間洞で福井哲也さんに出会った日。
僕はここで、またしても重要な出会いを果たす。

岩月なつ美さん。

ソロで南を縦走する女性は、あまりみない。聞くと、数々のロングディスタンスのレースに出場しているという。
再び岩月さんに再会したのはそれから1年後、TJARのゴール、大浜海岸。
「チームの仲間を応援に来たんです。」そう語っていた。
「チームの仲間」とは、米田英昭さんと、佐幸直也さん。アドベンチャーレースに参戦するチーム「サンコンズ」のメンバーだ。

アドベンチャーレースとは、チームを組み、トレッキング、カヤック、MTB、シュノーケリングなど、海・山・川を問わず、アウトドアをフィールドにゴールを目指すレースだ。それぞれのアクティビティにおける高い技能が求められるのはもちろん、チームワークの良さのほか、地図読みのスキル、長いレースを走りきる体力、何よりも強い精神力が必要になる。
日本国内では田中正人・田中陽希両氏が所属する「EASTWIND」が唯一のプロチームとして知られている。

サンコンズは上記のメンバーに家段勝好さんを加えた4名のチーム。メンバーの住まいは佐幸さんと家段さんが徳島県だが、岩月さんが愛知県、米田さんが栃木県と、点でバラバラ。
サンコンズはどのように結成されたのか。

4人は口を揃えてこう言った。
「ターニングポイントは、鹿(笑)」
サコ「2014年のOMMにカダンちゃんと参戦する予定だったんです。でも鹿アタックにより急遽ヨネさんと組むことになりました。」
カダン「ロードバイクで会社の帰り、トレーニングのために峠道を走ってたら突然左から何かが衝突して。そのまま前方へ転倒しました。頭をメットごしに地面に打ちつけて意識失いかけながらも、持ちこたえて地面にたおれこんだところ、うしろからピーっという鹿の警戒音が。やられたー、って思いました。全身を打っていて、痛かったんですが、どうも、左肩だけ痛みがひかず、さわって見たら肩が下がっていて。
折れてると確信して119番。病院では、今日は夜遅くてなんもできんから帰って、と。結局、鎖骨が折れていました。」
ヨネ「カダンチャンには申し訳ないが、鹿に感謝しています(笑)」

サコ「その前のTJAR2014では、僕とヨネさんはほとんど話はしてなかったんです。」
このOMMで2人は意気投合。

翌年の2015年には米田さん、佐幸さん、そして同じくTJAR2014のメンバーである雨宮さんの3名でチームを組みヨーロッパアルプスを舞台にチームで300km以上を踏破するレース、PTLに参戦。完走率38%の厳しいレースだが、ここでも見事なチームワークを見せて日本人チーム唯一の完走を果たす。

2016年。米田さんと佐幸さんの間で「ともにチームを組んでアドベンチャーレースに出たい」という思いが強くなった。
ここで、米田さんが岩月さんをチームに引き入れる。
ヨネ「なっつとは2014年のトレランのレース中に前後したのが始まりです。」
なっつ「アドベンチャーレースってTVで見てていいなーと思ってはいたけど、敷居が高いというか、何をしたらいいかわからなかったんです。そう思っていた時、偶然ヨネさんに再会して。」
ヨネ「その後、『アドベンチャーレースに興味ないですか?』とメールしてみたんです。」
なっつ「私は『あります!』と即答。ものすごく返信が早くてびっくりされました(笑)」

米田さんが岩月さんを誘い、4人で「サンコンズ」を結成した。
サンコンズは伊豆大島が舞台となるアドベンチャーレース「RealQuest2016」の参戦を目指した。
RealQuest(RQ)は伊豆稲取から伊豆大島まで約30km、カヤックで渡るセクションがある。

家段さん、佐幸さんはアドベンチャーレースの経験があった。地元、徳島のレースには毎年参戦している。
カヤックの漕艇にも慣れている。
米田さん、岩月さんにはカヤックの経験はなかった。

なっつ「RQに出るためにはカヤックの認定試験があって合格しないとエントリーできないんです。タンデム艇で30kmを5時間以内で漕ぐというもの。私とヨネさんはギリギリの合格だったんです。」
ヨネ「大島横断はもっと時間がかかる。」
この年のRQはチームの2人がカヤックで渡り、もう2人は「何かしらの手段で伊豆大島まで渡る」というルール。2人はカヤックではなく、高速船で渡る決断をする。自分の力で成し遂げたい、という意志の強い2人。苦渋の決断だったのだろうと、容易に想像できる。

RQの結果は3位。しかし、納得がいくレースではなかった。
ヨネ「この時、順位について特別な思いはなくて。それよりかは、CP(チェックポイント)をなかなか見つけられず、全コースの半分しか回れなくって、残念だった印象が強かったな。その時は、俺はカヤックで『大島渡れます』って自信もなかったから、『くそー』って思いました。」

一年後のRQで、4人はリベンジを誓う。

その間、一人ひとりが技量を磨き、力をつけていった。
米田さん、岩月さんはニュージーランドで行われたレースに参戦。カヤックでのダウンリバーのセクションがある。
なっつ「あのレースもダメダメだった。お話になりません、って感じで。でも、あれで火がつきました。」
ヨネ「人生で初めて足切り関門食らったからね。NZ、世界レベルたけー。って。」
2人は西伊豆に通い、カヤックの腕を磨いていった。

さらに米田さんはEASTWINDの一員として南アフリカで行われた世界選手権に参戦した。
ヨネ「元EASTWINDのアドベンチャーレース仲間が、メンバーを探してる田中正人さんに引き合わせてくれました。南アフリカのレースでは、食料の準備の仕方とか、バイクの詰め方とかハードの面では、初めての体験だったから勉強になりました。」
田中正人さんのバイタリティも目の当たりにする。
ヨネ「田中さんはすごい。CP見つけるまでとにかく動き続ける。それはもう、脱帽。」

日本最高峰のチームでの経験。でも、米田さんの想いはサンコンズにある。
ヨネ「夜の星がめちゃめちゃ数が多くて綺麗で、『これをチームのみんなに見せてあげたいな』って思って。それから、南アフリカで友達になった海外のチームの人達がその後大会に出てる様子を見て、今度はサンコンズとして、どっかであえたらな、と思ってます。」

「アドベンチャーレース用のバックパックを作ろう。」

僕と岩月さんの間で、こんな話で盛り上がった。ほどなくメンバー4人とのバックパック製作プロジェクトが立ち上がった。
アドベンチャーレースに特化したモデルはない。25Lほどの軽量なバックパック、という点では、TJARで求められる要素と同様だが、アクティビティの多様さ故に必要な要素が加わってくる。
水抜き、GPSポケット、牽引用ループ。4人の今までの経験を元にアドベンチャーで必要となるディティールを追加していく。僕にとっても未知の世界。
住まいがバラバラなので、頻繁に顔を合わせることはできない。数回の打ち合わせの他、細かなやりとりはチャットで行う(すぐに脱線してしまうのだが)。4人の要望をもとに、僕はRQ2017へ向けてバックパックを製作していった。出来上がったのは、個性豊かな4つのバックパック。

RealQuest2017

サンコンズは再び伊豆稲取のスタートラインに立った。目指すはもちろん、優勝。
同じ場所には「SheepMonsters」というチームがいた。
ヨネ「憧れのメンバーです。海外レース経験者の強力メンバーが集まったチームで、連携もいい。西伊豆でカヤックを漕ぐ時に色々アドバイスをもらう先生がいたり、OMMで優勝しているメンバーがいたり。目標とする人たちがいて、自分たちの頑張りでどれだけ近づけるか、戦いを挑んでいく感じが面白いんです。」

今年はもちろん、4人ともカヤックで大島に渡った。海は荒れた。他のチームが苦戦を強いられる中、サンコンズは6時間を切るタイムで大島に到着する。一年の努力が身を結んだのだ。


大島上陸後も順調にレースを展開する。全てのCPを回り、レース3日目の03:30。見事トップでゴールテープを切った。
サンコンズらしい、笑顔のゴール。

それでも、4人は奢ることはない。
なっつ「カヤックのトラブル無かったら、SheepMonstersに完全に負けてました。」
ヨネ「ガチンコ勝負だと、多分まだ勝てない。来年は大島5時間切りの実力はつけておきたい。」

サンコンズは、まだまだ上を見据えているのだ。
ヨネ「発展途上のサンコンズが、すごく楽しいんです。」

レースから1週間後、4人はまたそれぞれのフィールドで自分を磨いていた。
数年後、日本のアドベンチャーレースを背負っているのは、サンコンズかもしれない。
少なくとも僕は、そう信じている。

(写真左より)
佐幸直也(サコ)
1981年6月11日
徳島県

岩月なつ美(なっつ)
1983年7月11日
愛知県

米田英昭(ヨネ)
1980年11月19日
栃木県

家段勝好(カダン)
1981年8月14日
徳島県

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